お車を長年使って来ますと、いろいろな部分が古びて来ます。
味として捕らえられるヤレなら結構なことなのですが、絶対的な破滅を予感させるものがあります。普段目にすることは出来ない、タイミングベルトのお話です。 これは、基本的にディフェンダーの場合は8万キロを数えたらクルマが休ませられる時についでに交換して頂きたいところです。もし御多忙だったり、車齡の割に走行距離が短い場合は、目安として5年5万キロが、予定を考える時期だと見ておいた方が安心です。
続くお写真をご覧頂くとお分かりになると思いますが、これを交換する為にはエンジンの前部分が総バラシになります。周辺にあるホース・ベルト・クランプ類やメクラネジ等樹脂部品も劣化を考慮すると5〜8年で替えたいところですので、この作業をする時に同時に全てを交換出来ますから、工賃等をみるなら個別で対処するより割安です。
費用を概算しますと、お車の状態、特に汚損度・腐蝕度によりますが大体17万円程度となります。
このほか、この時期にはラジエーター・ウォータージャケットの清掃等をしておくことも効果的ですし、オルタネーターやエアコンコンプレッサーのOVH等、電装系の見直しもしたい時期と重なりますので、幾つかの点検・整備を同時発注されることをお薦めします。
タイミングベルトは、エンジンの皮一枚下にあるため、普段様子は分かりません。ちょっと剥がしてみようにも、それに至る迄にあれこれ降ろさねばならず、点検も容易ではないのです。しかし、それは、エンジンの給排気バルブを駆動する重要な役割を、猛烈な早さで上下するピストンとバルブが決してミートすることがない精度で行っていますが、ゴム製故に劣化も懸念されるモノです。
では、何故そんなモノが使われているのでしょうか。
チェーンにすればイイ、という話もありますけれど...。
チェーンは金属ですから質量が大きいのです。幾ら強く張っても、目方で暴れるのを抑えるには限度があります。その為にアイドラーという部品を途中に入れますが、目方があるものが余計に目方のあるものを回すことになり損失が大きくなるのです。
エンジンのアウトプットは、Tdiの場合は130HPmaxですが、それは一秒間にクランクシャフトが百回も回るから得られる出力です。私が指に通したベアリングを空回しさせても精々秒速7〜8回ですが、その時に回す指はかなり負荷を感じます。タイミングベルトとアイドラーはもっと重い部品達ですが、先の実験の十倍以上で回転するのですから、負荷は馬力単位で必要です。これで失われるのが5馬力とすると、もしベルトをチェーンにしてその精度を得ようとすると20馬力は失うでしょう。望む燃費は得られなくなり、馬力の為に馬鹿に排気量が必要になり、エンジンは邪魔に大きくなり、結局クルマは大凡エンジンを運ぶ為だけに動くという、大昔への先祖返りをしてしまいます。そんなクルマを今時売ろうものなら、捕らえられ罰せられるでしょう。
タイミングドライブにチェーンが使えるのは、その総延長の短い小排気量のエンジンか、回転の遅い汎用エンジンに限られる現実があります。小さなエンジンならチェーンを使うとオイルシールやユニット隔壁を減らせ、完成重量が軽く出来ますし、エンジン寿命も百万キロ単位のオーダーを仕向けられることはありません。汎用エンジンは主に据え付けで機械を駆動するものなので、幾ら重くなっても構いません。ディフェンダーに採用されるエンジンは専ら50万キロでフルオーバーホールが望まれる程長寿命で、無開放で百万キロ走っている車もザラです。それを可能にするのは、こうした基本的な消耗部分に対する、きちんとしたサービスサイクル管理と実施です。
もしタイミングベルトが切れたら..と考えると、経験が複数有る私は怖くて夜も眠れなくなります。
ベルトが切れた瞬間バルブ動作は止まり、下から上がって来るピストンと接触します。ピストンは性能設計ぎりぎりの厚みで作られていますので、ほぼ間違いなくバルブに打ち抜かれる序でに、クランクシャフトを捻ります。これでクランクシャフトが折れたことも有りますし、良くても大規模な修正を要求されるか、または交換しなければならなくなります。同時にコンロッドが折れると反動で回されて暴れたそれがクランクケースを打ち抜きます。何れにしても相当な修理費が必要になります。
結果としてクルマ全体の寿命を言い渡されかねない程の大打撃を蒙るのは避けられないのです。
ディフェンダーでこれが起きると先ず百万は数える大修理になります。問題を深刻にしないうちに、あまり考え込まないで整備を実施して下さい。