ランドローバーオーナーインターナショナル
ショウ2016
イーストオブイングランド・ショウグランド・ピーターバラ
2016年 9月 17〜18日
探訪記録
ここ数年は毎年訪問のピーターバラの見本市会場、時期的にも晴れ得意の頃合、清涼な気候が快適です。ロンドンなど大都市からのアクセスは少々悪くなりますが、そうした理由からこちらのショウは好まれ易いのです。
昨年のディフェンダーラインのターミネートをうけて、業界とそれを取り巻くユーザーオーナーの環境は一変しました。
年頭から在庫新車の買付合戦が口火を切り、中古車の流通相場までも影響を受け始めました。実質の製造は六月初頭までは続けねばならない程の終了業務をメーカーは背負っていたのです。受注のほぼ全てを昨年半ばに終えたにも拘らず、終了に伴うパニックを回避する為に部品メーカーが先んじて減産、他品に資源を振り向けるようになり、部品の納入量が順次減じて生産だけは公示の日付で終えられなかったと聞き及んでおります。そのため、昨年発注に成功した販売者が募集した転売先への納入車輌が届かないなど、食い違いが随所で発生、代品を生産納入済の商品に求め、荒れを生じてそれはこの段階でも終息していないようです。
創設以来経営の礎としていたモデルの終了は、メーカーにとっては少々どころかその歴史を転じる改革を目しての一大決断です。書いている私自身、元々オフロードトラックメーカーがGTVに挑戦していると思っていた、レンジローバーなどを、これからはフラグシップと認めなきゃならんのです。これは、結構痛い。多くのイギリス人は、いわずもがなといったところでしょうか。シリーズIから連綿と続いたこの「四角い奴ら」、実際UNの取材等で現地で使うと、ハイラックスをどんどんおいてきぼりにする実力があることを御当地ユーザーは良く知っています。世界はそれを果たして不要とするのか。実は、そういってくれるのを待っていたら、BMWに身売りしたランドローバーにとって、かなり住み心地が良くないひと世代の覚悟を強いられる。メーカーとは女王バチのような存在です。時として有能な働き蜂の誕生を絶っても、時代に見合った生き方を選ばねばならない。「そう思っていた」我々は、いわば置いて行かれた訳ですが、この車たちと同じで、そう簡単にへたばりはしません。大本山がそうあっても、へたばりどころ自体が違う我々みたいな人たちは、そこからのサプライが絶たれても、情報を求めて活動します。だから、
「これでもかと思う程人多い」
イベントになってしまった様相。昨年に増しての、大混雑でした。
マップの中の、Cのエリアは、クラブスタンドといっている、愛好家の展示スペース。キャメルトロフィー車やG4車の保存所有者団体もこの中にいて、お買い物とは一線を画した、己が道を示す、一寸堅い世界観を感じる一角です。Bのエリアはカーディーラー。毎年紹介しているネーネーオーバーランド(もう一ケ所有名なショウスペース“ビリングアクアドローム”の隣を流れるネーネー川から借名)さんはB32。Dはチューニングメーカー、Fはパーツショップ系、Kは周辺業種(アパレルや雑貨・おみやげ・飲食など)例外的にK29はジャガーランドローバー。こういった感じで系統別に出展エリアも纏められているので、大混雑の場所を避けて歩くことが出来るという訳です。
さて、私共一行は、撮影するお写真のこともありますので、成る可く混雑は避けて移動したいものですが、なかなかそうも参りません。何しろ、私共は、既に私共の意思に関せず、新造車輌のサプライを受けられなくなりました。このことは、私共が皆様にお仕えするものごとの半分近くを損じたことになります。これに接する皆様の中の多くの方が現車を所持保有為さり運行されています。今年からは、皆様も、保有車輌を新品に入れ替えるという選択肢を損なわされ、ディフェンダーというクルマと接して行く大きな柱の一つが無くなってしまったのです。皆様が新車からスタートされた訳ではありません。所謂中古車から接し始められている方も多くいらっしゃいます。工業製品ですから、生産から十年、二十年と経るうち、徐々に損なわれていくサプライが現れて来ます。埋め合わせる方法が必要です。こうした展覧会は、細々とした広告に頼るより、関係者が一同に居合わせるので、そうした様子を見るのに好都合ですが、ディフェンダーは、嘗て私共が取扱ったスポーツカーの類いに比べると圧倒的に数があり、充足させるに相応しい方法を紡ぎ出さねばなりません。私共とディフェンダーにとって、今年はニュー・エイジの幕開けの年なのです。お客さまである皆様方のお車を、将来、守り抜けるお手伝いをどのようにすればよいか、答えは今の時点では誰にも分かりません。そうした宿題を背負っておりますので、どうにも物見遊山な気持ちも時間も、持てない旅になりました。
ゲートを通って目に入ったのは、きれいに再生されたシリーズIでした。
60年経ったこの実用車をこのレベルで再生し、維持して行くのは楽ではありません。弊社でも常々、旧車を提供しておりますが、それをお求めになり運行されるオーナーさまの勇気と度胸と閃きには感服することが多くあります。自動車は、普通、二十年も経ちますと、お知り合いにカギを預けてハイドウゾという訳に行かないものです。後年メンテナンスで新しいものに入れ替わったところとそうでないところとのバランス加減。新しいところが旧いところに負担をかけるのを予測しながら運転する。気を抜いたばかりにガコーンとドライブシャフトを折ってしまった、なんてことが容易く起こるのが旧くなったというもの。私共はお客さまがその危険に晒されないよう、可能性があるところを成るべく平たくする為に新しい部品に交換してお渡ししたりするのですが、それを取り巻く全てが新しくなる訳ではありません。アクスルのホーシングも、修正後新品のように長く定常を保ちません。後年部品として作られたものであっても、折れたり切れたりするかも知れません。自動車は、あるロットが生産されて世に放たれると、5年程度で少なくとも3割が解体されるといいます。十年では7割近くが無くなるという、その他工業製品に比較してかなり短命な企画品なのです。ディフェンダーの残存率は、その普通に比べて遙かに高く、解体される車を探すことは困難な程ですので、多くのオーナーが旧車として育って行く課程の洗礼を受けることになるのです。危険なそれでなければ「勉強」として経験されることはむしろ宜しいのですが、外に危険を及ぼすそれでは困ります。御覧のように美しく再生された車が、全く危険を齎さないとは申せません。ショウベースとして見るなら、見所が多くタイムトリップの感覚も味わえ面白いのですけれど、あちこちで手掛けられ、こうして仕上がったどれもが、運行に耐えうるとはなかなか申し難い。とある旧車のオーナーさんは、下手に手を入れるより歳なりにやれていてくれた方が安心だと仰ったことが思い出されます。ただ、そのお言葉の陰には、「信頼するサプライヤー」の存在が見隠れしました。多額を掛けるレストアを節目と考えて環境を一新するか、そうした安心を齎すサプライヤーやサービスサポートを見い出して、ヤレるに任せて使い続けるか。大多数のユーザーは、賭した金額だけの切替を見出せるかどうか分からないレストレーションよりサービスに頼ることをお望みでしょう。日に日に枯渇して行く資源を飽くなく追求してその信頼をお寄せ頂かなければならない、と、考えています。